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審判前の仮処分(子の引渡し)に基づく強制執行の具体的手順(民事執行申立まで)

1 はじめに

 

 離婚協議をする場合、同居しながら行うよりも、別居しつつ行うことが一般的です。

 お子さんがいる場合、離婚成立前に夫婦の一方が子どもを連れて別居をすることになります。

 

 ただ、別居前に話し合いが行われないケースが多く、子をどちらが監護するのか(子とどちらが一緒に住むのか)について争いになることがあります。

 

 以下、備忘を兼ねて、審判前の保全処分に基づき子の引渡しの強制執行を申し立てるまでの具体的手順を記載します。

 

 

2 具体的手順

 

(1)審判申立、審判前の仮処分(保全)申立

 

 家庭裁判所に対し、子の引渡し・監護者指定の審判を申し立てます。

 また、同時に、子の引渡し・監護者指定について審判前の保全処分も申し立てます。

 

 保全を同時に申し立てた場合、1か月以内に初回期日が設定されることが多いです。

 また、初回期日から裁判官が関与して行われ、スピード感をもって進行していきます。

 

 ただし、保全だけ先行して判断がなされるというよりは、本案である審判と同時進行となり、2~3か月程度を要することもあります。(どのように対応していくべきかは立場や事案によって異なります)

 

 子の引渡し・監護者指定の判断基準としては、子の利益が中心に置かれていますから、常に子の利益から主張を積み上げていくことになります。

 

 

(2)執行官に子の引渡しを実施させる決定申立、間接強制申立

 

 審判前の保全処分で「仮に引き渡せ」との審判がなされた後の対応についてご説明します。

 

 当然ながら、お子さんへの影響を最小限にするため、相手方に連絡をして任意での引渡しを求めます。

 これを拒否された場合には、強制執行を検討することとなります。ただし、保全は審判書(謄本)の送達を受けてから2週間以内に執行に移行する必要があり、スケジュールとしては余裕がありません。

 子の引渡しの保全執行も強制執行の例によることになりますから(家事事件手続法第109条3項、民事保全法第52条1項)、民事執行法を参照しなければなりません(民事執行法第174条等)。

 

 代理人が行うべき作業としては、依頼者への連絡や委任状の取得は当然として、家裁から保全の審判書正本を(少なくとも)2通取得しておかなければなりません。(直接強制と間接強制を同時に申し立てる場合)

 

 次に、直接強制を行いたい場合、管轄を有する裁判所(家裁)に対し「執行官に子の引渡しを実施させる決定申立」を行います。これはいわゆる授権決定といわれるものです。また、これと同時に間接強制の申立てを行うことが考えられます。同時に申し立てること自体は制限されていません。

 ここで、民事執行法第174条2項1号に従って間接強制をしてから直接強制へという順序を取った場合、保全審判書の送達を受けてから2週間が経過してしまい、直接強制が困難となるリスクがあります。この点について明確に判断した裁判例や書籍に(令和6年3月時点で)接することができなかったので、代理人の立場としては、何はともあれ2週間以内に直接強制の授権決定を得ておくこと(授権決定の申立をしておくこと)が安全と思われます。

 

 

(3)民事執行申立(直接強制)

 

 執行官に子の引渡しを実施させる決定が出た場合、同決定の正本を取得し、地裁の執行官室に民事執行申立を行います。

 必要書類や予納金額は、執行官室によっても扱いが異なると思いますので直接の確認が必要です。

通常、

・民事執行申立書、当事者目録、未成年者目録

・執行官に子の引渡しを実施させる決定正本

・委任状

が必要とされます。

 

 また、参考資料として、

・審判前の保全処分の審判書(写し)

・審判や保全における調査官調査報告書(写し)

を求められる場合があります。

 

 これに加えて予納金として20万円前後、

 子の人数が1人増えるごとに8万円前後が必要とされます。

 

 

(4)その他

 

 強制執行を申し立てる場合、事前に(場合によっては保全申立の時点から)執行官室に連絡をしておき、

何が必要になるのかを確認・協議しておくとよりスムーズに進行すると思われます。